皆さんは、全ねじカッターという工具を知っていますか?
全ねじカッターは建物のケーブルラック工事などに用いられているほか、DIYで棚などに用いられる場面でも使用されることがあります。
また、全ねじカッターはボルトカッターとは刃の形状が違うため、切断時にバリやカエリが出にくいことがメリットです。
そこで今回は、全ねじカッターの概要から使い方までを解説してきます。
全ねじカッターはどんな工具?ボルトカッターとの違いは?
全ねじは、建物に設置されているケーブルラックやつり天井を固定など工事現場やDIYで棚などを作る場面でも用いられています。
また上記のような場所の作業では、現物合わせで施工する方が有利な場面もしばしばあるため、全ねじを必要に応じて切断する必要があります。
そこで、必要となる工具が全ねじカッターです。
本項では、全ねじについてから全ねじカッターの構造や種類までを解説していきます。
そもそも全ねじはどんな部品?ボルトとの違いは?
最初に全ねじについて解説していきます。
全ねじは、JIS B 0101では、「円筒部がないもの」と記載されており、円筒の全てにねじ加工が施されている部品です。
また、全ねじと似た表記がされている部品に全ねじボルトがあります。
全ねじボルトは、上記で解説した全ねじの先端に頭(六角部)が加工されている部品です。
つまり全ねじは、全ねじボルトの頭が無く、円筒状の棒の表面すべてにねじ加工がされている部品ということになります。
全ねじカッターはどうやってねじを切断している?
全ねじカッターは、2枚の刃を用いてハサミのように全ねじを切断する工具です。
また全ねじカッターの2枚の刃は、ネジ溝が加工された固定刃と可動刃に分かれており、固定刃でねじをねじ山に沿って固定し、稼働刃で挟み込むことで切断します。
そのため切断時もねじ構造を維持できるので、切断面にバリやカエリが残らなかったり、グラインダー作業のように火花が散らなかったりする特徴があります。
全ねじカッターにはどんな種類がある?
前項では、全ねじカッターの切断方法について解説していきました。
全ねじカッターには、大きく分けて「手動タイプ」と「電動タイプ」の2種類が存在します。
そこで、本項では「手動タイプ」と「電動タイプ」の全ねじカッターをそれぞれの構造の違いから解説してきます。
1.手動タイプ
手動タイプの全ねじカッターは、ハサミのようなテコの原理を利用するテコ式と手動の油圧ポンプを搭載している油圧式があります。
メリット | デメリット | |
テコ式 |
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油圧式 |
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このように、テコ式は油などの消耗品が必要ない代わりに、より硬いねじを切断できる品物では全長が長くなる傾向があります。
一方、油圧式はテコ式に比べてより省スペースで大きな力を出せる代わりに、油などの消耗品が必要だったり、比較的価格が高かったりする一面を持ちます。
また、これらの手動タイプの全ねじカッターは電動式の全ねじカッターとは違い、電源を必要としない点が最大のメリットと言えるでしょう。
2.電動タイプ
電動タイプの全ねじカッターは、基本的に手動の全ねじカッターと同じ考え方で動作しており、可動刃を電動で動かすことで全ねじを切断します。
電動タイプの全ねじカッターには、電源方式に充電式とAC電源式があります。
メリット | デメリット | |
充電式 |
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AC電源式 |
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このように充電式では、高所作業などの電源から遠い作業場で使えるメリットがあるのに対して、AC電源式は固定の作業場で長時間用いることに長けていると言えるでしょう。
ボルトカッターとの違いはなに?刃のかたちが違う⁉
全ねじカッターとよく似た名称の工具にボルトカッターがあります。
ボルトカッターも全ねじカッターと同じくテコの原理を利用して切断する工具で、ハサミやニッパーなどと似た形状をしています。
では、全ねじカッターとボルトカッターではどのような違いがあるのでしょうか?
以下に、全ねじカッターとボルトカッターの特徴を記載します。
特徴 | メリット | デメリット | |
ボルトカッター | 2枚の薄い刃で構成されている | 切断部の幅が小さくても対応可能 | 切断面にバリやカエリが残る可能性がある |
全ねじカッター | 2枚の刃にねじ溝が掘られている | 切断面にバリやカエリが残りにくい | 切断部の幅にスペースが必要 |
このように、ボルトカッターは刃が薄いため、幅の狭い箇所でも切断可能な反面、切断後にバリやカエリの除去が必要です。
一方、全ねじカッターは全ねじを刃に付いているねじ溝に沿って切断するため、切断面が変形すること無く切断することができます。
ちなみに、ねじやボルトの切断面にバリやカエリが残ると、ナットにねじやボルトを通せなかったり、ナットとねじが噛みこんで外せなかったりするケースもあるので、切断後は必ず切断面を確認すると良いでしょう。
全ねじカッターの選び方は?使用方法や気にするポイントも解説!
前項では、全ねじカッターの構造や種類を紹介していきました。
では、様々なメーカーから販売されている全ねじカッターをどのように選べば良いのでしょうか?
そこで本項では、全ねじカッターの選び方から使用時に気にしておくポイントまでを紹介します。
全ねじカッターの選び方のポイントはなに?
前項では全ねじカッターには、手動タイプ(テコ式/油圧式)や電動タイプ(充電式/AC電源式)があり、それぞれ得意とする状況が違うことを紹介しました。
本項では上記に加えて、全ねじカッターを選ぶ際に重視したいポイントを3つ紹介します。
1. 全ねじカッターの重さ
個人の趣味などで全ねじカッターを短時間使用する場合は、重さを重視する必要はあまりないかもしれません。
しかし、電気工事などの現場で長時間使用する場合は、蓄積疲労を考慮すると重さを重視して選ぶ必要が出てきます。
例えば、工事現場では天井付近や入り組んだ場所での作業も想定されるので、より軽量な方が汎用性の高い作業が出来ると期待されます。
また電動式の全ねじカッターは約3kgの製品が多いので、「3kg」を目安により軽量な全ねじカッターを選定すると良いでしょう。
2.刃の方向
電動タイプの全ねじカッターには、刃の向きが持ち手に対して平行に取り付けられているタイプ(以下、平行タイプ)と垂直に取り付けられているタイプ(以下、垂直タイプ)が存在します。
以下に平行タイプと垂直タイプの特徴を示します。
刃の方向 | メリット | デメリット |
平行タイプ |
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垂直タイプ |
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このように、平行タイプと垂直タイプは作業場の環境や切断した箇所によって使い分けると良いことがわかります。
3.切断能力
切断能力を確認するには、全ねじの材質とねじピッチサイズの確認が必要です。
全ねじの材質は、軟鋼とSUS(ステンレス鋼)の2種類があります。
これは一般に、軟鋼よりもSUSの方が硬い素材で出来ているため、全ねじカッターの刃もそれに応じた刃を選択する必要があります。
また全ねじカッターは、固定刃と可動刃にそれぞれねじ溝が掘られており、ねじを固定することで切断時のバリやカエリを残りにくくしています。
そのため、切断したいねじと同じねじピッチサイズの替刃(W3/8用など)を搭載できる全ねじカッターの選定が必要です。
このように、使われている全ねじの種類に応じて全ねじカッターを用意すると良いでしょう。
全ねじカッターはどうやって使えばいいの?
全ねじカッターの使い方(作業方法)は以下の4ステップで行うことができます。
- 全ねじの切断箇所にマーキングをする
- 全ねじカッターのねじ溝に全ねじをセットする
- トリガースイッチを押す(手動の場合はレバーを下す)
- 切断面を確認する
では順を追って見ていきましょう。
1.全ねじの切断箇所にマーキングをする
まず、全ねじカッターを用いる前準備として、切断箇所にペンなどでマーキングをしておく必要があります。
全ねじは長い円柱にねじが切られているため、目視などの感覚では切断位置を正確に把握出来ないケースも容易に想像できるでしょう。
また全ねじを計画より短く切断してしまうと、部品が取り付けられなかったり、必要なねじ山を残せなかったりするケースが考えられます。
これらのケースでは、最悪の場合、取り付けられている全ねじを全て交換しなければならない事態も想定の範囲に含まれます。
そのため、全ねじカッターを用いる前には必ずマーキングをする必要があると言えるでしょう。
2.全ねじカッターのねじ溝に全ねじをセットする
切断したい箇所にマーキングをしたら、全ねじカッターをセットします。
全ねじカッターは固定刃と可動刃がすれ違う箇所で全ねじを切断するので、固定刃と可動刃のすれ違う箇所にマーキングの位置をセットします。
3.トリガースイッチを押す(手動の場合はレバーを下す)
全ねじカッターに全ねじをセットしたら、トリガーボタンを押します。
この時は、指などの全ねじ以外の物体が全ねじカッターの切断部に入り込んでいない事を確認しておくと災害や不具合を未然に防ぐことが出来ます。
また、手動式の場合はレバーの位置と切断する位置が離れているので特に注意をしておく必要があります。
4.切断面を確認する
全ねじの切断作業が終わったら、切断面の確認をしておきましょう。
それは全ねじカッターでの切断時に、全ねじ以外の物体が入り込んだり、刃が経年劣化していたりすると、切断後のねじ部を変形させる可能性があるからです。
そのため、切断作業後は簡単な目視などをするとより良いでしょう。
全ねじカッターで気にしておくと良いポイントは?
前項までで、全ねじカッターの選び方と使い方を整理していきました。
そこで本項では、全ねじカッターを扱うに当たって気にしておくと良いポイントを紹介します。
1.刃の状態
全ねじカッターのねじ溝にヘタリやゴミ噛みがあると切断面が変形してしまい、手直し作業が発生するケースがあります。
また、ステンレス製の全ねじにバリやカエリが残ったまま、ナットを取り付けると全ねじとナットが噛みこんで動かなくなる可能性も否めません。
そのため、切断後の確認時に、切断面にバリやカエリが頻繁に残るのであれば、必要に応じて刃を交換する必要があります。
2.バッテリーの汎用性
充電式全ねじカッターを使用する場合、予備のバッテリーや充電器を持参するケースも少なくないでしょう。
また、工事現場では全ねじカッター以外の電動工具を持参することも想定されるので、全ねじカッターを含めた様々な電動工具のバッテリーが統一されていると、持参する荷物が少なくて済みます。
そのためバッテリーの汎用性は、全ねじカッターの選定時のみならず、他の電動工具を選定する際も念頭に置いておくこともおすすめします。
全ねじカッターってどんな工具?種類から使い方までを徹底解説!まとめ
今回は、全ねじカッターの構造や種類から使い方までを解説していきました。
全ねじカッターは、全ねじの切断に特化した非常に便利な工具だとわかりましたね。
本記事を参考に、全ねじカッターの導入の一助になれば幸いです。
工具を取り扱っている会社で働いてました。
父親が現場関係の仕事をしていたために、幼い頃から工具が身近にありました。
HiKOKIのハンディクリーナーを愛用しています。